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抱きしめられたジゼルの腕の中は、優しい風の匂いがした。
この風に抱かれて生きて来たユリウスは、今この風と共に宿命を受け入れる。
たった一人の、かけがえのない赤い焔の為に。
「ジゼルはいつかまたアトラと出会う時が来るだろう。……正直、羨ましい」
『いい事を教えてあげるわユリウス。人間もね、転生はするのよ』
ジゼルの大気を震わす声に、ユリウスは静かな思いで耳を傾ける。
『脆弱な人間は、前世の記憶が苦いと次に転生する事を心が拒否してしまう。だから記憶は消されるの。……次に生まれ変わっても、きっとまたリトラちゃんに会えるわ。心と宿命が、それを導くから……』
「その話、本当か」
『さあ……どうかしら』
ジゼルがふふっと笑い、また螺旋を描いて夜空へ昇る。
「気休めでもそれを聞いたら心残りはなくなった。必ず探し出す。そして次こそ、一緒に歳をとってやる」
『その意気よ。……さあ、行きましょうか』
ユリウスは小さく頷くと、一度だけ振り返った。
あの林の向こう、奥屋敷の寝台の中でリトはまだ眠っている。
(安らかな眠りよ、どうか全てが済むまでその腕からあいつを放さないでくれ)
そして目が覚めた時、ひとしきり泣いてくれたらそれでいい。
リトは強く、周りにも愛が溢れている。アトラしかり、ポーリンしかり、そして……あの執事もいる。
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