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頭の中は疑問符でいっぱいなのに、顔は燃えるように熱い。
出会った時から、そして闘技場で戦っていた時でさえも、実はドキドキと胸が鳴っていたのは内緒の事だったのに。
「あの……、だってあたしたちまだ会ったばかりで、その……」
「その点は問題ない」
ゆったりと長い脚を組み、笑みさえ浮かべてユリウスは言った。
「心は要らないんだ。肌が合えばそれでいい」
「え……」
どういう、意味?
「深く考えるな。お前は護衛として傍に控え、私が求める時はそれに従えばいいだけの事だ」
「…………」
心は要らないとは、つまりリトの気持ちはどうでもいいという事。けれど、もう一つの言葉の意味は図りかねる。
(肌が合うとか合わないとか……なんだろう。性格の事かな……)
どちらにしても、自分自身が望まれたわけではないのは明らか。
リトの騒いでいた胸の中に、急速に苦くて冷たい何かが広がっていく。
「これは私の、シオン公爵直々の命だ。拒否は許さん。叛けば即刻国外追放とする」
「…………!!」
せっかく聖警隊の一員になれたのに?
公爵の護衛なんて華々しい任務を負って、これからアトラも力を発揮できる、そう思った矢先だったのに……?
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