花嫁は焔《ほのお》の護《まも》り姫

26/50
前へ
/309ページ
次へ
「なぜそんな顔をする。私はお前を気にいってるんだ、悪いようにはしない」  呆然とするリトのこめかみに口づけて、彼が尚も囁く。 「リト……私もこれからそう呼ぼう。今は戸惑いもあるだろうが、すぐにそんなものは失くしてやる。割り切って考えた方が賢明だぞ」  何をどう割り切れというのだろう。  公爵と結婚すれば裕福な生活ができる? それとも公爵夫人というステータス?  そんなものが女の子の『大好きな人に愛されてお嫁さんになる』という大事な夢と釣り合いが取れるとでも? 「こら、そんなに口をへの字にするな。全く面白いやつだ」 「あたし、ユーリのことちょっぴり好きだなって思ってたのに……」  ピクリと彼の眉がわずかに振れる。  その途端、これまで飄々としていたユリウスの目の色が一変した。 「……それは気の迷いだ。今夜は通達だけのつもりだったが……わからせてやろうか?」  グッと腕を引き寄せられ、身を固くしたリトの(あご)をユリウスがきつく掴む。 「今度はまともなキスをしよう。力を抜け……これは命令だ」  冷たいブルーグレーの瞳。有無を言わさぬ低い声色。  振り払ってアトラを呼ぶことだって出来た。でもそれをしたところでどうなる?
/309ページ

最初のコメントを投稿しよう!

692人が本棚に入れています
本棚に追加