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「なぜそんな顔をする。私はお前を気にいってるんだ、悪いようにはしない」
呆然とするリトのこめかみに口づけて、彼が尚も囁く。
「リト……私もこれからそう呼ぼう。今は戸惑いもあるだろうが、すぐにそんなものは失くしてやる。割り切って考えた方が賢明だぞ」
何をどう割り切れというのだろう。
公爵と結婚すれば裕福な生活ができる? それとも公爵夫人というステータス?
そんなものが女の子の『大好きな人に愛されてお嫁さんになる』という大事な夢と釣り合いが取れるとでも?
「こら、そんなに口をへの字にするな。全く面白いやつだ」
「あたし、ユーリのことちょっぴり好きだなって思ってたのに……」
ピクリと彼の眉がわずかに振れる。
その途端、これまで飄々としていたユリウスの目の色が一変した。
「……それは気の迷いだ。今夜は通達だけのつもりだったが……わからせてやろうか?」
グッと腕を引き寄せられ、身を固くしたリトの顎をユリウスがきつく掴む。
「今度はまともなキスをしよう。力を抜け……これは命令だ」
冷たいブルーグレーの瞳。有無を言わさぬ低い声色。
振り払ってアトラを呼ぶことだって出来た。でもそれをしたところでどうなる?
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