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「苦しくなったらそう言っていいぞ。初めてではおそらく……」
「……痛かった……? 胸……」
腕の中で小さく零れた呟きに、ユリウスが眉をひそめる。
「ああ……私の傷の事か。子供の頃にちょっとな……もう昔の事だ」
彼が僅かに身体を起こし自分の胸元に目を落とすと、その痕にリトがそっと指を這わせた。
「これからは……あたしがついてるから。ユーリにこんな傷は付けさせない……」
「……!」
それは燻る身体の疼きに囚われながらも、リトの中から自然に湧いてきた思いだった。
おそらく剣か鋭利な刃物で切りつけられたであろう、裂創の痕。
子供がこれほどの傷を負うなんて、その時の幼い彼はどんなに怖かっただろう……と。
「リ、ト……」
ヒュウと、どこからか小さな風が巻き起こりカーテンを浚っていく。
目の前に映る艶めいたブルーグレーの瞳。
それを今にも壊れそうに揺らしながら、ユリウスがリトの唇にそっと唇を重ねる。まるで大事な壊れ物に触れるように……。
やがて彼は小さく息を吐き、ゴロリと寝台に横たわった。
「はは……、お前というやつは……」
隣に並んで仰向けになった彼は、天井に向かって笑っている。
「ユーリ……?」
パチパチと目を瞬かせると、突然ユリウスはリトの身体をうつ伏せにひっくり返した。
「きゃっ……! な、なに……」
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