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聡明で美しく、淫らな子爵令嬢。
この娘は彼の花嫁候補の中でも、群を抜いてその座に近い所にいると言えよう。
「困った人ですね。紳士たるもの、淑女を乱暴になど扱えません」
微笑んで、彼女の腰を掴み……その身体は脇へ押し退けられた。
「え……?」
そして寝台から降りてしまう彼に、彼女はわけが分からない様子で顔を強張らせる。
「すみません。気分が乗らないので帰ります」
「ええっ? そんな、どうして……!」
彼は手早く衣服を身につけながら、部屋の隅に据えられた衣装箪笥を流し見た。
「おさまりがつかないようでしたら、続きはどうぞ予定通り、そこの衣装箪笥の中で息を殺している方と」
令嬢が声にならない悲鳴を上げる。
同時に、衣装箪笥からはみ出していた青いローブの裾がシュッと中に吸い込まれた。
「貴女があまりに乱れるので、いささか彼が気の毒になりましたよ」
「ち……違います! いえ、そんな方……私は知りません!」
「いや、急にお訪ねした私が悪いのですから。ああ、別にこの件で貴女が私の花嫁候補から外れたりはしません」
身支度を整え、ツカツカと部屋を横切って直接庭へと続くドアに手を掛ける。
「むしろ理想的だ。私の花嫁に愛は要らない。……ではまた」
蒼白となって言葉を忘れた令嬢を残し、彼は笑いをこらえながら暇つぶしの宴を後にした。
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