花嫁は焔《ほのお》の護《まも》り姫

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「えと……もうローブは着てもいい……?」 「ダメだ。このまま寝ると言っただろう」  憮然とした答えが即座に返って来て、リトはちょっとだけ首をすくめた。 「この手は……? ずっとあたしの……ここに?」 「当たり前だ」 「当たり前って……。じゃあその……じっとしててね。動かさないで」 「さあな、それはわからん。…………私にお預けを食わせたんだ。これくらいは許せ」 「え、なあに? 聞こえなかったよ……」  触れ合った肌は温かくて優しくて、じっとしていると心の中にも安心という温かさが広がっていく。  だとしたらこれは、ある意味肌が合うと言えるのではないだろうか。 「……ジゼルとアトラも今頃こうしているだろう……」  ふいにユリウスがそんな事を言い出した。 「え……やっぱりあの二人、そうなの?」 「ああ……。何代も前からアトラの傍には必ずジゼルがいて、奴の盾となり鉾となり力を貸す。永遠の恋人と呼ばれている……これも有名な話だ」 「知らなかった……。アトラ、自分の事はちっとも教えてくれない……」 「アトラの浮気癖に手を焼いていたそうだ……」 「ふうん……。……え?」  そんなたわいもない寝物語。  少しずつお互いの声が間遠になっていき、いつしかリトはぬくもりに包まれたまま眠りの世界に落ちていった。
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