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「ちょっと……闘技場って、どこなの?」
広い。広すぎる。
もうどれくらい、この広い屋敷の敷地をグルグルと歩き回っているのか。
受付をした時に渡された案内書によれば、会場の闘技場は確かにこのシオン公爵家の敷地内に位置している。
ちゃんと地図通り進んできたはずなのに、行けども行けども林が続き、闘技場らしき建物どころか人っ子ひとり見当たらない。
『諦めて村へ帰ろうぜリト。どうせもう間に合わない』
リトの頭の中でいつもの声が響いた。
「いやよ! だいたいアトラが都見物に夢中になってたから、受付も最後になっちゃったんじゃない。しかも方向感覚には自信あるとか言っといて迷ってるし」
『おい……! それは全部お前がした事、言った事だろう』
「細かい事はどうでもいいの! うわあぁん、試験に間に合わないー、闘技場ってどこー!?」
赤毛に近いハチミツ色の長い髪をかきむしり、エスメラルダの瞳に涙を滲ませて、リトは森の中でしゃがみ込んでしまった。
それでも相棒のアトラはまだ彼女の中から姿を現さない。
「アトラ、あんたそれでもあたしの聖護獣なの? こんなに困ってるのに、なんか笑ってない?」
『笑っちゃいないが、そもそも俺はリトが聖警隊になるなんて反対なんだ。このまま採用試験に間に合わなきゃいいとは思ってる』
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