花嫁は焔《ほのお》の護《まも》り姫

4/50
前へ
/309ページ
次へ
 若者はじっとリトを見つめていたかと思うと、ローブと同じブルーグレーの瞳を細めて穏やかに微笑んだ。 「闘技場は、ここからずっと西にある丘の上だよ。こんな森を抜けるより、表通りから行った方が早いと思うけど」 「うそっ! だってほら、これによると公爵家の敷地内に……」  リトは思わず立ち上がって、若者に地図を突き付ける。 「だからそこも公爵家の敷地なんだ」 「はあっ? なにその広さ。この地図、縮尺おかしくない!?」 「はは、それはすまなかった。それより君、順番は何番? もうだいぶ試験は進んでいると思うが」 「25番……最後なの。どうしよう、もし間に合わなかったら……!」  今にも泣きそうなリトの肩に手を置き、若者がスッと目を閉じた。 「……大丈夫。今、闘技場に残っている私の聖護獣に伝言を頼んだよ。進行係に、最後の受験者が来るまで待って欲しいと伝えるように」 「え、あなたも聖護獣の主なんだ。今は闘技場にいるの?」 「ああ。私だけ他に用事ができてね、先に帰ってきたんだ」  苦笑して肩をすくめる若者は、気さくなのにその美しい容貌は神話の神のよう。  リトは思わずほうっと見とれ、お礼すら頭から抜け落ちてしまった。  
/309ページ

最初のコメントを投稿しよう!

692人が本棚に入れています
本棚に追加