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若者はじっとリトを見つめていたかと思うと、ローブと同じブルーグレーの瞳を細めて穏やかに微笑んだ。
「闘技場は、ここからずっと西にある丘の上だよ。こんな森を抜けるより、表通りから行った方が早いと思うけど」
「うそっ! だってほら、これによると公爵家の敷地内に……」
リトは思わず立ち上がって、若者に地図を突き付ける。
「だからそこも公爵家の敷地なんだ」
「はあっ? なにその広さ。この地図、縮尺おかしくない!?」
「はは、それはすまなかった。それより君、順番は何番? もうだいぶ試験は進んでいると思うが」
「25番……最後なの。どうしよう、もし間に合わなかったら……!」
今にも泣きそうなリトの肩に手を置き、若者がスッと目を閉じた。
「……大丈夫。今、闘技場に残っている私の聖護獣に伝言を頼んだよ。進行係に、最後の受験者が来るまで待って欲しいと伝えるように」
「え、あなたも聖護獣の主なんだ。今は闘技場にいるの?」
「ああ。私だけ他に用事ができてね、先に帰ってきたんだ」
苦笑して肩をすくめる若者は、気さくなのにその美しい容貌は神話の神のよう。
リトは思わずほうっと見とれ、お礼すら頭から抜け落ちてしまった。
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