花嫁は焔《ほのお》の護《まも》り姫

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(やだ……なんだろ。試験でもないのになんかドキドキ……) 「さあ、早くお行き。あまり試験官を待たせてもいけないよ」  若者に背中を押されてハッと我に返る。 「う、うん、ありがとう。あなたも公爵家に仕えているんでしょ? 試験が終わったらお礼に行くわ。お名前は?」 「礼なんていいよ。……私はユーリだ」  その名前を胸の中で転がして、リトは駆け出した。急がないと本当に試験が終わってしまう。 「ユーリ! あたしが合格したら同僚ね。そうなるように祈ってて。ま、あたしが落ちるわけないけどー!」  ユーリに向かって大きく手を振ると、彼も笑いながら手を振り返してくれた。  屋敷の森を抜け、西に向かって走る。動きやすいブーツとショートパンツ、上は(レザー)のビスチェにシャツを一枚羽織っただけ。  これがいつもの戦闘服(スタイル)なので、準備運動も兼ねてリトは全力で走った。 「いい人に会えてよかったね、アトラ。親切で物腰も柔らかくて、すっごい綺麗! やっぱ都の人は村の男とは違うなー」 『なんだアイツ……余計な事を』  不服そうなアトラには構わず、リトは前方を指差し声を上げる。 「見えた! あの丘の上の建物だわ。やっぱりかなり距離がある……アトラ、お願い!」 『チッ』  その瞬間、リトは熱い気の塊に捉えられ、丘の上にそびえ立つ闘技場まで一気に飛んだ。  その様子を、町の一角にある窓から一人の人間が食い入るように見つめていた……。
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