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再会した彼は、『あの日』のままだった。
駅近くのホテル。
賑わう会場は、人の足音をかき消してしまう。
だから近づく気配に、気付くのが遅れてしまった。
「深水?」
呼びかけられた声に咄嗟に反応し、その姿を瞳に映したら……今度は動けなくなった。
「諌山君……」
私が名を呼ぶと彼の表情が緩んだ。
懐かしむ瞳には陰りはなく、無邪気な笑顔は『今』の彼を教えてくれる。
ああ、そうなんだ。
視界が揺れそうになる。眩暈のようなものを感じたが、私は気力でなんとか踏みとどまった。
もう諦めていたつもりだったのに……。
彼の向こうに蘇る記憶。
今はもう遠い、熱さに溶けた記憶は去年の夏まで遡る。
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