第1章

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 ここで何度泣いたことだろう。  自分を責めて、  相手を責めて、  怒って、  暴れて、  けれど何度トオルに会いに来たことだろう。 「トオル、トオルっ!」  それでも、彼は起きない。  この白い世界に取り残されたまま。  どうしたら彼は目を覚ますのだろうか。 「そういやさ、絵を描いてきたんだ」  ヒロユキは涙を拭い、学生鞄とは別の手さげから小さなキャンバスを取り出す。そこには、トオルとヒロユキ、二人で額を合わせて笑っている絵が描かれていた。 「お前、前に俺に言いかけてたことあったろ」  それ、何だろうと思って、スズネさんに思い当たることを聞いてみたんだよ。 「したら、お前久しぶりに二人で笑ってる、新しい絵が欲しいって言ってたって聞いてよ」  だから描いてきた。 「これ、やる」  二人が描かれたキャンバスを眠っているトオルの胸の辺りに置く。そして――― 「トオル、俺は、今でも、トオルが好きだよ」  絵と同じように額を合わせ、そっと乾いた唇に口付けた。  これで目を覚ませばいいのにと、何度願ったことだろう。しかしそれが叶うことは無い。 「とおる・・・」  ぽたり、と落ちた涙がトオルの瞼の上に落ち、流れる。それはまるでトオルが泣いているかのように見えた。 「俺、ずっと待ってるから」 ずっとずっと、待ってるからな。  涙声でそう言い、そろそろスズネさんも戻って来るだろうと椅子から立ち上がれば。 「・・・・」 「と、おる?」  彼の手が動き、その手でキャンバスを抱きしめ、ゆっくり瞼が上がる。  そして何も音のない声で、 「――――」  そう、呟いたのだった。  棚の上に置いたラムネについている水滴が音もなく、涙のように零れ落ちる。  青い空、白い雲。青春と言ったら聞こえがいいけれど。  来年の夏、またビー玉の音が響くのはその次の物語。 ビー玉とラムネ。
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