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ここで何度泣いたことだろう。
自分を責めて、
相手を責めて、
怒って、
暴れて、
けれど何度トオルに会いに来たことだろう。
「トオル、トオルっ!」
それでも、彼は起きない。
この白い世界に取り残されたまま。
どうしたら彼は目を覚ますのだろうか。
「そういやさ、絵を描いてきたんだ」
ヒロユキは涙を拭い、学生鞄とは別の手さげから小さなキャンバスを取り出す。そこには、トオルとヒロユキ、二人で額を合わせて笑っている絵が描かれていた。
「お前、前に俺に言いかけてたことあったろ」
それ、何だろうと思って、スズネさんに思い当たることを聞いてみたんだよ。
「したら、お前久しぶりに二人で笑ってる、新しい絵が欲しいって言ってたって聞いてよ」
だから描いてきた。
「これ、やる」
二人が描かれたキャンバスを眠っているトオルの胸の辺りに置く。そして―――
「トオル、俺は、今でも、トオルが好きだよ」
絵と同じように額を合わせ、そっと乾いた唇に口付けた。
これで目を覚ませばいいのにと、何度願ったことだろう。しかしそれが叶うことは無い。
「とおる・・・」
ぽたり、と落ちた涙がトオルの瞼の上に落ち、流れる。それはまるでトオルが泣いているかのように見えた。
「俺、ずっと待ってるから」
ずっとずっと、待ってるからな。
涙声でそう言い、そろそろスズネさんも戻って来るだろうと椅子から立ち上がれば。
「・・・・」
「と、おる?」
彼の手が動き、その手でキャンバスを抱きしめ、ゆっくり瞼が上がる。
そして何も音のない声で、
「――――」
そう、呟いたのだった。
棚の上に置いたラムネについている水滴が音もなく、涙のように零れ落ちる。
青い空、白い雲。青春と言ったら聞こえがいいけれど。
来年の夏、またビー玉の音が響くのはその次の物語。
ビー玉とラムネ。
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