第1章

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 楽しそうにヒロユキの前に出てきたトオルだったが、ピロン、と彼の鞄からラインが届いたことを知らせる音が響いた。 「ちょっとごめんね」  トオルは謝りながら、カバンからスマホを取り出し中を見てみると、瞬間的に表情が変わる。それと同時に、ヒロユキは心の中で「あぁ」と全て察した。 「ヒロちゃん!」 「スズネさん、早く帰ってくることになったって?」 「ピンポン、ピンポン大正解!」  クルリと周りながら喜ぶトオルに、ヒロユキは視線を逸らし「じゃぁ、さっさと行けば?」と冷たく言い放つ。 「うん、行くわ!」 「・・・・」 「あ、でもさヒロちゃん」 「ンだよ」 「ヒロちゃん、姉さん家知ってるよね?」 「・・・・知ってるけど」 「じゃぁ、明日迎えに来てくんない?」 「はぁあ?!」  顔を歪めつつ驚きに声を上げるが、トオルは全く気にする様子もなく「お願いねー」と手を振って走って行ってしまう。 「俺、迎えに行かねぇからな!!」  トオルの背中に向けてそう怒鳴るも、彼は手を上げただけで振り返ることもしない。 「ぜってぇ行かねぇかんな」  グっと拳に力を入れて、自分自身に言い聞かせるように言うヒロユキ。  スズネさんの家は知っている。何回か帰りにトオルを送ったことがあるからだ。けれど、そうするのも胸が痛くて途中から送ることはしなくなった。 (そのことに気付いてるのか、気付いてねぇのか)  ヒロユキはまた手に持っていたラムネの瓶を夕焼け空に向けて透かし、ビー玉をカランと転がす。 (結局、俺はトオルの手の平の中で踊ってんのかねぇ)  これからもずっと、このビー玉のようにラムネに溶けることなくこの心を持ち続けるのだろうか。  一緒にいられるならどっちでもいい。そう割り切っていた時期もあったけれど、高校2年にもなると、モヤモヤした気持ちを吐き出したくもなる。 「あー、俺も別に好きな奴作ってセックスでもするかなー」  そんなことを呟きながら歩いて行く。  でも知ってる。そんなことが出来ないことくらい。そんな器用なことが出来たら、もうやっている。 「ほんっと、俺って一途だな」  これは報われない恋。  どう足掻いても、虚しいままの恋だ。  それでも好きなんだから。  どうしようもない。 ―――次の日。 「どうして迎えに来なかったの」 2時間目から来たトオルに部室に連れ出され、いきなり睨みつけられる。
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