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家には誰もいなくて、実家にも、駄菓子屋にも、どこにもいなかった。
それはそうだ。
その時トオルは――――
「もしもし?母さん、いま俺いそがし、」
『バカ!なんで学校いないのよ!トオル君が大変って時に!!』
そう。
その時トオルは、川で流されていたのだから。
「まさか川に落ちてたなんて誰が思うかよ」
ヒロユキは目の前で眠ったままのトオルに溜息をつく。
「あんなことがあった後だから警察は自殺だって言うし、けどスズネさんとご両親は事故だって言い張るし」
どっちが本当なんだろうな。
「でもさ、トオル。俺さ、スズネさんから聞いちゃったんだ」
ずっとトオルを見ていた視線を、ラムネを置いた棚へと移す。そこにはラムネの他にボロボロになった一枚の絵が置いてあった。それは『トオル』『ヒロユキ』と名前が書かれた、二人が並んだ絵であり、小学生低学年くらいに描かれたのだろうと分かるくらいの画力だ。
「現場検証の時に、スズネさんがこれを見つけたんだ」
『本当は警察に渡さないといけないんだと思うけど』
そう言って差し出された絵。
『これ、ずっとトオル大切に持っていて―――』
―――もしかしたら、これを川に落としちゃって拾おうとしたんじゃないかしら。
「こんな古くて下手なやつ、なに後生大事に持ってんだよ」
描いた俺でさえいつ描いたか憶えてねぇよ。
口元は弧を描いているけれど、笑っていないことは目を見たら分かるだろう。
「しかもさ、高校に上がる頃から、スズネさんとは近親相姦の縁を切ってたんだって?」
もう身体を繋げることもしなくなってて、そんでもって、スズネさんにはもう結婚前提の彼氏もいて。
「んで、俺と喧嘩した前日に、スズネさんに『トオルはヒロちゃんが好きなんだ』って言われたんだって?」
だから、あんなに動揺したのかよ。
「ホント、バカだよな」
ぽろり、と落ちる。
「しかもスズネさんとは、キスだけはしてなかったんだって?」
キスをするようになったのは高校に上がってからなのは、そういうわけかよ。
「ただ、お前が俺のことが好きだって、認められなかっただけじゃねぇかよ」
ぽろり、ぽろりと、零れ落ちる。
「ほんと、逃げ出しただけでよ」
一年だぜ?一年まるっと逃げてるんだぜ?
「もういい加減っ、」
起きろよ、トオル。
「おきろよ!」
ヒロユキは唇を噛み締め、涙を零す。
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