第1章

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「お前の好きなスズネさん、来てたんだな」  嬉しかっただろ。  トオルは何も答えない。 「そういや、今日はラムネ持ってきた」  外あちぃから、もうぬるくなってると思うけど。  膝に置いていた学生鞄の中からヒロユキは二本ラムネを取り出し、棚の上へと置く。  トオルは何も答えない。 「ここで飲んだらべとべとになるから、置くだけにしとくわ」  お前飲むの下手くそだしな。  ヒロユキはそうトオルを笑ってみるけれど、やはりトオルは何も答えない。  白い世界の中で、まるで魔法に掛けられたように眠るトオル。 「は、はは」  ヒロユキはそんな姿のトオルを見て、空笑い。 「一年」  そう、一年だ。 「今日がまるっと一年目だ。お前が眠り始めてから」 一年、 365日、お前は眠ったまま。 「ルーズリーフに書いた手紙だけ残して・・・お前は、眠ったまんまかよ」  ぎゅっと握りこぶしを作り、ヒロユキは続ける。 「〝逃げ出して、ごめん〟だけじゃ、事故なのか、自殺なのか、わかんねぇって」  ホント、逃げ出したまんまだな。  逃げ出した、まんまだな。  その言葉が白い世界で反響する。  トオルを責める言葉だというのに、まるでヒロユキ自身を傷つけているようで。 「―――なぁ、トオル」  ふいに、顔を上げてヒロユキは無理やり笑顔を作って言った。 「きっとスズネさんと先生の話、長くなると思うからさ」 「思い出話でも、しようか」  白い世界に取り残された病室に、ミンミンとセミの声が聞こえてくる。  棚の上に置いたラムネについている水滴が音もなく、涙のように零れ落ちる。  青い空、白い雲。青春と言ったら聞こえがいいけれど。    これは、幼馴染の不器用すぎる恋の物語。 ビー玉とラムネ。  佐神ヒロユキと一条トオルは小学校からの友達で、高校生にまでなるといわゆる幼馴染というものだ。  家が近いせいか、他の友達よりも接することが多く、親同士も仲が良かった。  相手の家に泊まる、なんてこともしばしばで、夕食なんかもご馳走になったり、ご馳走したり。  とにかく、簡単に言うと。  ヒロユキとトオルは仲が良かった。 「ヒロちゃん」 「ヒロちゃん言うなっつってるだろ」 「昔からヒロちゃんだったから、クセが抜けないんだよ」 「たまに女子共に笑われてんの知ってんだろ」 「まぁね。だけど、そんなこと気にする俺だと思う?」  まー、ヒロユキは気にする派だよねー。
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