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「ちっ」
バンとまたスケッチブックでトオルの頭を叩く。
「いった!なんでまた叩くの?!」
「ムカつくからだよ!」
「暴力反対なんだけど!」
「こちとらてめぇの性欲に反対だ!」
「・・・へぇ?そういうこと言っちゃう?」
「ンだよ」
「いやぁ?何でもなぁい」
じゃぁ、とっとと始めますか。
トオルは、んーっ、と伸びをして、ヒロユキの前に立つ。
「さてヒロユキ先生、今日はどんな姿をご所望で?」
首を傾げながら聞いてくる彼にヒロユキは部室の一番奥にある窓枠に座りながら、はー、と溜息をついて。
「上の白い制服っつか、ワイシャツ脱いで、肩から掛けてる姿」
「了解」
トオルはその言葉にコクンと頷き、ワイシャツのボタンを外し始める。その姿にゴクリと唾を飲み込んだ音は響いてないだろうか。
夏のクセに白く焼けてない肌。
桜色に色付く胸の突起。
「・・・これだから、他の女の子にはモデルをさせたくないんだよねぇ」
何かを呟いたトオルにヒロユキはビクリと反応し、どうした?と内心の動揺を隠しながら聞けば、何でもない、と返される。
「ワイシャツ、肩に掛けたら胡坐掻いて座って」
「なんか煙草吸いたくなるね」
「吸うなよバカ」
「吸わないって」
ていうか、今日持ってないし。
そう続けたトオルにヒロユキはまた溜息をついて。
「じゃぁ30分ごとに休憩取るから、まぁ疲れたら適当に言えや」
「はーい」
「じゃぁ、描き始めるからな」
ヒロユキはスケッチブックをパラパラと捲り、まだ何も描いていない白いページを鉛筆で黒く汚していく。
白色を黒く汚して出来上がるのが絵だ。もしかしたら黒色を白く汚して出来上がるものもあるかもしれない。ようするに、元ある色を汚して出来上がるのが絵だと、ヒロユキは思っている。それをトオルに言ったら「汚して完成なの?ヒロちゃんって意外と変態さんだよね」と言われてしまった。
(お前よりは変態じゃねぇよ)
その時のことを思い出して、ヒロユキは内心舌打ちをする。
「あれ?なんかヒロユキ先生、いきなりご機嫌斜め?」
「人の顔観察してんじゃねぇよ」
「だって暇なんだもーん」
「たまには己を綺麗にするために、汚ねぇ自分自身と喋ってろ」
「なんか心理学の先生みたいだね」
「いいから―――」
「はいはい、黙ってます」
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