第1章

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「・・・・」 「だから、今更そんなこと気にしないし」 「・・・・」 「あれ、ヒロちゃん気にしてた?」 「いや、別に」 「だよねー。ならさ、」  今度はニッコリ笑って。 「俺が姉さんのことが好きでも、問題ないよね」  当たり前のように、言い放った。 (問題ありありだっつーの)  ヒロユキの鉛筆を握る手に力が入る。 (俺がいつもどんな気持ちでいるかも知らねぇで)  お前はその口で、姉さんが好きって言い放つんだ。  ヒロユキは静かに瞼を閉じ、開く。  何かがこみ上げそうになるのを誤魔化すために。 「ていうか、ヒロユキ描き終ったー?」 「だいたいは描き終ったから、今日はもういいわ」  お前の顔なら見なくて描けるし。  そう言い、ヒロユキはスケッチブックと鉛筆を捨てるかのようにバサリと落とし、 「この後の時間はお前の相手してやるよ」  中途半端に開いていたワイシャツのボタンを全部外して、歩を進めるのだ。 「わーい」  胸の痛みに気付かぬ彼の元へと。 カラン、コロン、カラカラ (あぁ、身体を繋げるのはなんて簡単なことなんだろう) (心が無くても身体を繋げることは出来るし、) (心があっても身体を繋げないことも出来る) (あぁ、身体を繋げるのはなんて難しいことなんだろう) カラカラ、コロン、カラン 「ひーろーゆーきー」 「・・・・」 「無視ですか」 「無視ですよ」 「お前、ほんとラムネとその中のビー玉が好きだよな」  ヒロユキは夕焼け空に向けて空になったラムネの瓶を持ち上げ、ビー玉を揺らしながら遊ぶ。  学校からの帰り道、近くにある駄菓子屋さんでラムネを買って飲んで帰るのがヒロユキとトオルの日課だった。 「お前はほんとラムネ飲むのが下手だよな」 「うるせえですよ」  汗でも精液でもない液体に濡れたワイシャツをパタパタと引っ張りながらムスっとした表情で返す。 「ほぼ毎日飲んでんだぞ?なんで今でも飲む時に零れさせるんだよ」 「俺は苦手なの!あぁやってシュワシュワ噴水みたいに飛び出す飲み物は!急ぐし緊張するじゃん」 「・・・ラムネで緊張すんなら、別のことで緊張してほしいもんだな」 「何だって?」 「何でもねぇよ」  カラカラと瓶を回しながらヒロユキは吐き捨てた。 「あ、そういえばさヒロちゃん」 「ん?」 「今度さ―――」
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