元妻の証言

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日本にいる時、住んでいるマンションの郵便受けにやたら質のいい紙の封筒手紙が届いていた。 手書きの見覚えのある筆跡は別れた元夫のものだ。 元夫の手紙は簡潔で、娘が5歳になった事と、伊東寿紀と言う二十歳そこそこのまだ大学生の男とパートナーシップ宣誓をして一年たった事が書かれていた。 そして結婚一年目だから紙婚だとパートナー父、伊東寿明にモノの良いレターセットと万年筆を贈られたから手紙を書いてみたとたわ言のようなことが綴られていた。 (幸せそうで何より) 長期の留守から帰った郵便受けの選別で久し振りに毒にも薬にもならなそうな手紙を貰って気がぬけたのは事実だ。帰ってきたと実感出来る。まぁ、じゃあ何で離婚したかとなれば価値観の違いとしか言いようがない。 私の元夫、篠原幸は根っからのスリルジャンキーで、それが高じてか10代からスタントマンと言う職についていた。 セックスも好きで女とも男とも寝るくせに、気が高ぶると自分からどう考えても体格も力も強そうな男に抱かれに行く。 あばずれで、でも結婚して一時期落ち着いたものの、性分は変えられないらしく、何時の間にか元に戻っていた。 離婚したのはそれだけが理由ではないが。 スリルジャンキーですれっからしであばずれのそんな元夫を当時3歳だった娘は"パパを一人に出来ない"と言わしめ離婚時の親権問題はわりとあっさり片付いた。 心配をしていなかった訳じゃない、気付けば兄弟姉妹を量産しそうな貞操観念ゆるゆる男はほどなく一人の歳上の男に捕まった、伊東寿明、海洋生物学専攻の客員教授で、正直セックスは好みじゃなかったがどうやら男は穏やかな面と蛇のような執念深さをみせたらしい。 そして何がどうなったか知りたくもないが、元夫はその男の息子、伊東寿紀と書類上のパートナーシップ宣誓をした。 そして一年たって男女の結婚記念日で言う紙婚を 無事迎えたと言うことらしい。 ついでのように便箋に書き綴られた文字を目で追ってこっちが本件じゃないのか?と思う。 パートナーは今度、大学を休学し父である大学教授の長期フィールドワークについて行くため(南極の湖の生態系調査だそうだ)そして自身も海外での撮影が入ったので、私が国内にいるなら娘を頼みたいとの事だった。 私は便箋を封筒に戻し、元夫の携帯端末に電話する。 了
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