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「十歳くらいから料理を仕込まれたんだ。そこに住んでて客を取ってないのは俺だけだったから、これは俺の仕事だって言われて。揚げ物とか、あと炒め物とかも意外と子供には危ないから、茹でたり煮たりばっかりでメニューは限られてたけど。未だにその傾向が残っているんだよな。量が多いと作るのもその方が楽だし。……結局オーナーの好みに合わせるからジジ臭いもんばっかになっちゃうんだ」
まだ俯いたままのカレンさんは、ぼそぼそとまるで言い訳をするみたいにそう言う。
「や。本当に僕こういうの好きだし、すっごく美味しいです! なんだか、とてもいい奥さんをもらったみたい。……あ」
ついつい勢いでさっき思っていたことを口走ってしまった。慌てて口を押えてももう遅い。
「…………バカじゃない?」
カレンさんは一瞬箸を止めたあと、思い切り眉をひそめて吐き捨てた。
それから僕たちはお互い俯いたまま黙々と食べ続けた。
「あの、ごちそうさまでした。本当に美味しかったです」
語彙が少ないせいで同じようなことしか言えないけれど、もう一度感謝の意を述べて、気まずい雰囲気を断ち切るように立ち上がる。食器を片づけて洗おうとしたら「俺やるけど。慣れてるし」と言われてしまった。
「そんなあ。こんなに美味しいごはんを作ってもらったんだから、僕がやります。休んでいてください」
「……でも、俺が置いてもらってるわけだしさ」
「…………!」
今度は僕がきょとんとする番だった。
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