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強引に転がり込んできて、ほとんど逆レイプみたいに襲ってきて……まあそれは途中までで免れたわけだけれど、でもそこまでしておいて今更そんな殊勝なことを言ってくるだなんて思ってもみなかった。
「じゃあ洗った食器を拭いていってもらえますか?」
いつも一人分なら洗った後にカゴに伏せて放置しておくのだが、今日は二人分だし品数も多かったから、乾かす場所がない。
並んで洗い物をしていると、ずっとこんな日々が続きそうな錯覚をおこした。まだ浮かれているのかもしれない。洗い終わった食器をひとつひとつその小さな手に渡すたびに緊張してしまうのさえ、喜びにしかならなかった。
最後の一枚を渡して仕上げに鍋を洗っていると、先に拭き終えたカレンさんが背中に顔を埋めてきた。
「アルファの匂いがする」
「…………!」
ドクンと跳ねた心臓の音が聞こえたかもしれない。なんでもない振りができていたかどうかなんて、全くわからなかった。
「今日、アルファといた?」
「あ…………」
そっちのほうか、と胸をなでおろす。そういえば今日は大垣内にも昨夜オメガといたか聞かれたところだ。アルファとオメガは離れていてもお互いの匂いを嗅ぎとれるのだろうか。僕にはわからないけれど。
「ま、うちの大学には沢山いますからね」
「いや、そういうのじゃなくて。もっと濃い匂いがする」
僕の背中へと語りかけられる声が、Tシャツの布地に吸収される。
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