だから何も問題ない

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「早く着替えろ。河合の分際で俺たちの時間を無駄にしてんじゃねぇよ」  暴力を前にして屈服以外の選択肢を持たない僕は、大人しく命令に従い着替えることにした。トイレで着替えてこようと立ち上がった僕を、すかさず原が腕を掴んで引き留めた。 「どこ行くんだよ。ここで着替えろ」  彼らはご丁寧にも女の子用の下着まで準備していたので、僕は裸になって下着を含め全てを彼らの前で着替えなければならなかった。 「うわぁ、超ガリガリじゃん! マジきめぇ」 「つーか、あのパンツにチンコがおさまるってどんだけ小せぇんだよ。マジうける」 「俺のデカいから絶対おさまんねぇわ」 「はい出た! 原のチンコでかい自慢」 「つーかさ、こんなんで本当に男寄ってくるわけ?」 「俺、三万出すって言われてもヤルのきついわ」 「俺は十万出すって言ったらしてやってもいいかな」 「俺は百万」 「お前のチンコどんだけ高いんだよ!」  アハハハハ、と下品な笑いが渦巻く。その笑い声に呑み込まれてしまいそうになるのを、スカートの裾をぎゅっと握って必死に耐えた。 「それじゃあ行くか」  何の説明もなしに僕の手首を掴んで、西條が歩き始めた。それにつき従う原たち。 「い、行くってどこに?」  恐る恐る口にすると、西條が口端を吊り上げて答えた。 「ナンパ通りだよ」  ****  ナンパ通り。  そう呼ばれているのは、街の駅から少し離れたホテル街の手前にある通りのことだ。もちろん正式名称ではない。ホテル街が近いこともあり、どんな女の子でもそこに立っていれば、誰でもナンパされるからそう呼ばれているのだ。  西條たちが僕に女装させたのは極めて単純な理由で、そのナンパ通りに僕を立たせて、ナンパされるか否かを賭けるということだった。  タイムリミットは夜の十時。原と坂本は、ナンパされない方に、西條はナンパされる方に賭けた。  びゅう、と鋭い寒風が通り過ぎ、僕は肩をすぼめた。かれこれ四時間ほど立っている。もちろんまだナンパはされていない。  僕としては怪しい人間に関わり合いたくないので、ナンパなどされたくないが、しかし西條が「ナンパされる」方に賭けたのなら話は変わる。
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