だから何も問題ない

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 あの三人の中でいじめの中心になっているのは西條であり、彼が一番の発言力を持っている。彼は子どもっぽく、大層な負けず嫌いであるから、こんなくだらない賭であろうと負ければ途端に不機嫌となるだろう。そしてその不機嫌は僕に暴力となって吐き出される。  今日ナンパされるかされないかで、明日の暴力加減が変わるのだから心中穏やかではない。  周りをきょろきょろと見渡す。この通りは、駅の方面に向かって居酒屋が、ホテル街に向かう方にはアダルトグッズなどのいかがわしい店が建ち並んでいる。  僕は通りがちょうど居酒屋からいかがわしい店へシフトしていく境に立っていた。ナンパを狙うのならもっとホテル街寄りの方に移動した方がいいだろうが、少し離れたファミレスから西條たちが見張っているので移動はできない。  また冷たい風が吹きつけてきた。タイツははいているものの、足元が異様に冷える。僕はその場にしゃがみ込んだ。体内のわずかな熱が逃げてしまわないよう膝をぎゅっと抱く。  どうしてこんな目に遭わなくてはならないのだろう。  何かの報いであれば受け止めざるを得ないが、人に危害を加えることも、法に触れるようなこともなく、善良とまではいかなくとも普通に生きてきた。どうして僕が……、と理不尽さにむせびそうになる。  しかしそう自分の不運を嘆きながらも、どうして自分がこういった理不尽を受けるかの理由は何となく分かっていた。  小さな頃から転勤族で、転校を繰り返していた僕は、生まれ持っての気弱さと、見目の悪さで行く先々でいじめにあっていた。女装を強要させられたのも今回が初めてではない。いじめの内容は、どこにいってもオリジナルティのない漫画やテレビを真似たようなものばかりだ。  いじめられることが続き、僕の性格はさらに暗く内向的なものになり、そこに付け入れられるようにまたいじめられる。その繰り返しでできた今の僕は、まるで虐げられるために生まれてきたような人間であり、いじめる者にとっては格好の餌食なのだ。  もっと強く、自信を持って生きなければならないことは分かっているが、どうやったらそうできるのかが分からない。  額を膝頭に押しつけ、じくじくと思考を湿らせていると、 「ねぇ、君どうしたの?」  優しげな声に顔を上げると、父と同じくらいの歳のおじさんが、声と違わぬ優しげな表情でこちらの顔を覗いていた。
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