だから何も問題ない

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「大丈夫か? あのオッサンに変なこととかされてないか?」  男は僕の前に膝をつき、いたわるように僕の頭を撫でてきた。思わぬ優しさに驚き、一瞬動きが止まったが、すぐに僕は頷いた。  その反応に、男はほっとしたように表情を少し緩めた。 「よかった。でも、こんな所にいたらまた変なのに捕まるぞ。早く帰れ」  命令口調だが、こちらを心配していることが十分に伝わる優しい声だった。  僕は逡巡した。帰りたいのは山々だし、一刻も早く立ち去りたい。けれど、西條たちが監視している中、勝手な行動は許されない。だが、男の優しさを無視するのも躊躇われた。 「……帰りたくないのか?」  僕の迷いを察したのか、男が訊いてきた。僕は少し迷ってから頷いた。  すると、男はスッと僕の前に手を差し出した。 「それなら、俺と一緒に来ないか?」  男からはさっきのおじさんより余ほど危険な香りがするのに、気づけば彼の手を握っていた。男はどこかほっとしたような笑みを零して、僕を引き起こした。 「じゃあ行こうか」  夜の街に不似合いなほどの爽やかな笑みを見せる男に、僕は頷き手を引かれるままナンパ通りを後にした。  繁華街の中をしばらく男に連れられ歩いた。  酒気を帯びた大人の喧騒がひしめく街は、僕には未知の世界であり、ひとたび男から手を離せば二度と元の世界には戻れないような気にさせた。  人ごみの中ではぐれぬよう子どもが親の手にしがみつくような必死さで、彼の手をぎゅっと強く握ると、男は微笑みを浮かべて「大丈夫、もう少しで着くから」と言った。  男が足を止めたのは、とあるバーの前だった。  明らかに年齢制限を受けるだろうそこに、男は躊躇うことなく踏み行った。  鼓膜を突き破りそうなほどの大音量の音楽に思わず顔を顰めた。店内は黒を基調にしており、また照明も弱く薄暗かった。  お酒と煙草の香りが立ち込めるそこは、どこのテーブルでも複数の派手な男女が、体を絡ませているのかと一瞬見紛うほど密着して、楽しげにお酒をあおっている。 「あ! ヘッドぉ、こんばんはぁ」  スキンヘッドの男が、席を立ってこちらに、正確には僕の横の男の元へ駆け寄ってきた。 「久しぶりッスね、最近全然顔を出さないから心配したんですよぉ」
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