だから何も問題ない

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だから何も問題ない

 女の子はかわいそうだ。  息苦しさを覚えるまでの小さな下着に下半身を四六時中締め付けられているなんて、あまりにかわいそうだ。僕ら男の余分なペニスを差し引いても、やっぱり女の子の下着は窮屈だ。  男であれば、ゆったりと余裕のあるトランクスという選択肢があるが、女の子にはそれがない。下着の種類でいえば、男の僕らよりよっぽど選択肢は広いのだが、それらはティーバックや紐パンツなど、履き心地は二の次で、見た目の可愛らしさや男の欲情を煽る色香に重点を置いた極めて安定性に欠いたものばかりだ。そこに締め付けはないだろうが、過度な解放感は時に心細さを覚える。  安定か解放感、締め付けか心細さ。  女の子は下着において、いつもそんな両極端な選択を迫られているのだろうか。  やっぱり、かわいそうだ。  けれど、女の子にこんな同情を寄せれば、彼女たちは露骨なまでの嘲笑を浮かべ、僕にこう言うだろう。 「男のくせに、女の格好をさせられて街の中で立たされているあんたの方がよっぽどかわいそうだ」と。  ****  時は四時間ぐらい前に遡る。  授業も終わり、友達がいない僕は、クラスメイトと言葉はおろか、視線すら交わすことなく教室を後にした。  そして誰にも話しかけられることなく靴箱まで辿り着いた。今日は真っ直ぐ帰宅できそうだとほっと胸を撫で下ろし、足の先を靴に入れようとした時だった。 「おい、河合。何、真っ直ぐ帰ろうとしてるんだよ。つれねぇなぁ」  振り向くと、にやにやと嗜虐的な笑みを浮かべる原、坂本、そして西條がいた。   西條たちに有無を言わさず連れてこられたのは、旧校舎の空き教室だった。人が来ることがほとんどないそこは、暴力を振るう者にとっては絶好の、暴力を受ける者には絶望的な場所だ。  これから身に受ける無数の暴力を想像して震える僕の前に投げ出されたものは意外なものだった。 「これを着ろ」  床に正座する僕の前に、足を組んで机に腰掛ける西條が、笑いながら命令した。投げ出された服を嫌な予感に身を震わせながら、恐る恐る広げる。  それは、過剰なまでのフリルとレースで作られた丈の短いワンピースだった。女の子さえ着るのを躊躇してしまいそうなほど可憐さに満ちたそれと、西條を交互に見て、命令の真意を探る。  すぐに命令に従わない僕に苛立ったのだろう、西條が僕の顎をつま先で蹴り上げた。
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