掛け違えた心

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 包丁に体重をかけていく。夫の目玉まで転がすような叫び声と共に、切っ先が数ミリずつその肌に減り込んでいく。その声に「はあ」と吐息を漏れた。脳の奥が痺れるような興奮に、顔も体も火照って吐息も熱を帯びているのが自分でわかるほどだった。 「乾燥した下着をかごにいれたまま、だの。プレゼントだよとくれたモノを誰が買ってやったと思ってるんだ、だの。ろくに顔も見ずスマホばっか気にしてさあ。約束してもきいてもなかったように平気で破って勝手にでかけてってさあ?」  おごっ、ごぼっという夫の喘ぎに合わせて包丁の先から鮮血が溢れ出してくる。膝元がどんどんと赤く染まっていく。 「挙句の果てに浮気相手をヘルパーに寄越して! 人が居ない間に乳繰り合って! 気づかないほど馬鹿だと思われていたなんて!」  わたしは譫言の様に、溜めこんでいた夫への言葉を笑いながら吐き散らし、包丁を引き抜いては言葉を埋め込むように体重をかけて何度も刺しつづけた。 「はぁ、はぁ、は、はははは。あははははは」  もうどんな顔だったかも分からなくなった夫をみていたらまた笑いが止まらなくなった。  するりとその塊から横へずれてヘッドボードに体を預けた。腕も怠くて力が入らない。わたしが寝る側の枕元には、持ち帰ったぬいぐるみが佇んでる。  わたしはそっとぬいぐるみを抱いて、おなかを押した。 『スキダヨ。ズットイッショダヨ』  ぬいぐるみの中のテープがまわり、録音されていた声が流れ出す。     
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