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掛け違えた心
窓から見える桜の木々が青い葉を揺らし蕾も柔らかく開き始め、格子窓から差し込む陽光は室内を温かく照らしてた。これから外へ出るなら上着は要らないかな、と思わせる陽気だった。
ベッドの端に腰かけて足をぷらりと遊ばせ、格子窓をすり抜ける風が首筋を撫でるのを一人で楽しんでいた。
やっと纏わり付いていた固定具も外すことができたのだし。まだ風通しの悪い両手首も窓に伸ばして風を掴もうと手を振ってみた。
「荷物はまとまってるの?」
首を傾げてその声に振り向くと、作り物じみた温和な笑顔を貼り付けた夫が、いつの間にかベッドの反対側に立っていた。
頭の天辺がじんわりと締め付けられるような、嫌な熱が籠もる。
「えっとねぇ。まだお着替え終わってないからぁ」
「……じゃあ、着替え入れたら終わりなんだね?」
畳みかけるように答えを返す声に、目尻が痙攣したことで返事をした。
しばらくシンと小鳥の鳴き声だけが響く部屋で、互いに背を向けながらそれぞれの時間を過ごしていた。
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