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「笑いごとじゃ、すまないんだよ? 相手は地主さんだからね。ごきげん、そこねたら、この村じゃ暮らせなくなるよ」
「大丈夫よ。そんなことには、ならないわ」
そう。なるわけない。だって、となりの、えっちゃんも、よしこちゃんも、サチエちゃんも、みんな……。
村の娘は、ほとんどが、巳鈴さんの愛人だ。
ガマだって、そんなことは知っている。
だけど、自分がみにくいから、文句を言えば、巳鈴さんに愛想をつかされてしまうことも、知っている。
小百合たちの関心は、ほんとのとこ、巳鈴さんが一番、愛してるのは誰なのかってことだ。
今日も田植えをしていると、地主の大きなお屋敷から、巳鈴さんが出てきた。
棚田にちらばって、あっちこっち、稲を植える早乙女を、巳鈴さんは嬉しそうに、ながめる。
「さっちゃん。精が出るね」
声をかけられると、小百合は舞いあがった。
「巳鈴さん。離れてないと、泥がはねるわよ」
「かまわないよ」
「きれいな着物がよごれるじゃないの」
「いいよ。ここで、君を見てる」
「でも、たいくつでしょ?」
「いや。田植えは楽しいね。ほら、もう、オタマがいるじゃないか。気の早いやつらだ。この村はカエルが鳴きさわぐから好きだ」
「巳鈴さん。カエルが好きなの?」
「可愛いカエルは好きだよ。この村には、食いごろの可愛いのが、いっぱいいる」
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