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「見た? 何を?」
たずねると、えみこは、不安げな顔で、あたりを見まわす。目的の人物はいなかったようだ。
「昨日の夜、よしこが歩いてたのよ。水車小屋のほうに向かってた」
水車小屋は夜間使われることは、まずない。
密会には、もってこいの場所だ。
つまり、よしこは、そこで巳鈴と待ちあわせしていた。
それを見ていたってことは、えみこも、よしこのあとを追っていたのだろう。
「それで、どうしたの? つけていったの?」
「やめてよ。なんで、わたしが?」
なんでも何も、ヤキモチ妬いたからではないのか?
でも、おたがいさまなことは、わかってる。
はっきりとは、問いつめない。
「家の窓から見えただけよ。こんな時間に、どこへ行くんだろうと思って。そしたら、そのあと、しばらくして、うしろを追っかけていく人がいたの」
「巳鈴さん?」
えみこは首をふった。
そして、口をひらこうとしたときーー
「このたびは、ご愁傷さまです」
弔問客が庭さきに入ってくる。
この声。おカネだ。
えみこは口をつぐんだ。
じっと、おカネの背中を見つめる。
やっぱり、そうだ。
犯人は、おカネだ。
きっと、サチエを殺したのも……。
あの神社の桜の下で巳鈴と愛しあった夜。
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