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夢の終わり_1
消毒液の匂いとかすかに聞こえる電子音。白い眩しさに目を開けられない。
そこにあるのは違和感ばかりだ。目を覆おうにも手は動かず、ならば寝返りをと思っても胴も脚も動かせない。少しずつ触感が戻るにつれ、拘束されているのだと気が付いた。だが、何故。
「ようやく気づいたか」
冷たい声が聴覚を刺激して、重い目蓋を持ち上げて目線だけをそちらに向ける。
実際は向けるまでもなく分かっていた。
「…久我?」
「アタマはまともらしいな。これで記憶まで混濁してたら俺の手には負えなかったところだ」
目つきも声音も見事なまでの絶対零度。医者としてどうよ? とは思うが、小学校から高校までの腐れ縁、久我朗人とはそういうモノなのだと諦めの境地に達して久しい。
「一応、形式踏まえるぞ。名前と年齢は?」
「…|如月東弥、28歳」
「現住所及び電話」
「住所は札幌市――、電話は部屋に固定なしで寮監室からの呼び出し、携帯は090――」
「親族の連絡先」
「正確には携帯でも見ないと分からんが、富良野の伯母だ。知ってるだろうが」
夏休みには何度も一緒に訪れた。なのに久我はにべもない。
「自分の身になにが起きたかは?」
「――……え?」
「そこまではまだ無理か。まあいい。ナースを呼んで、バイタルチェックしてもらう。頼むからその間だけでも正気を保っていてくれ」
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