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母様は言い返せないまま、悔しそうに拳を握って耐えていました。
母様を慰めしないと。思って姿を探していたら、不意に廊下の先で父様の大きな声がしました。続いて、母様の声も。
「俺は、ダメな嫁だ。周りは何人か子供がいるのに、俺は一人で、もう増やせない。それならいい相手をお前に娶せて、産んでもらうよりほかない。そんな風に言われて、俺が何か言い返せると思うのかよ。事実突きつけられちゃ、お終いだろ。我慢するしかないだろ」
この言葉に、僕の胸はズキリと痛みました。
母様の苦しさや、悲しさが声から伝わってきます。
言いたくても言えなかった思いが、全部を「ごめん」の一言に乗せてしまっていた気持ちが、溢れるように響いていました。
「私は貴方しかいりません。子など、これ以上はいりません」
「だって!」
「いりません! 貴方との子でなければ、愛せないでしょう。だからもう、いらないのです」
大きな声など出さない父様の強い言葉と、母様の泣き声に、僕の胸は締め付けられます。
僕は、一つ決意しました。
母様がこれ以上悲しい思いをしないように、僕が頑張らなければ。
僕が、沢山子供を産んでもらえる人と結婚して、黄金竜の王家を増やさないと。
僕は一つ決めて、父様と母様の側を離れました。
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