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困った顔をするな。これでも俺は、精一杯にお前を誘っている。遊びじゃないんだ、察しろ。お前だけだぞ、こんな風にキスをするのは。
俺は散々遊んでも、キスはしない。
それは母が「ファーストキスは大事な人の為に取っておきなさい」と昔から言っていたからだ。
そんな風習この世界にはないのだが、小さな時からなんとなく憧れはあった。
こんな事を言って、お前は分からないだろう。だが、俺の特別をお前に渡した。大きな意味があるんだぞ。
「ルーセンス、答えろ」
「…私がお相手では、あまりに分不相応です」
「何が不相応だ?」
「貴方は王太子殿下。私は騎士でしかありません。そのような者が貴方に触れる事は、あまりに…」
「ならば俺が王太子を捨てると言えば、お前は俺に触れるか?」
「そんなこと!」
焦ったコイツが俺の肩を掴む。必死なその顔を見つめ、俺は笑った。
「王太子か…やはり要らん肩書きだったな」
「シーグル様…」
「この地位を欲して求めもしない者が集まり、かと思えば求める者はこの地位に臆して手も出さない。俺は…誰かを求める事ができないのか」
それは、苦しい事だ。
あまりに難儀で、あまりにショックだった。そして、今があまりに滑稽だ。
こんな事で拒まれるとは思わなかった。
ならばいっそ、命じればいいのかもしれない。コイツは俺の命令に逆らわない。
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