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裏切りと優しさ
最悪の夜が明けても、香の悪い夢は続いた。
いや、これは夢ではない。辛い現実だ。翌日も早朝から、三係も南王署の刑事たちと一緒に聞き込みに出かけたが、まったく成果がなかった。
事件の手掛かりがいっこうに挙がらない。それは三係が遺棄現場近くの聞き込みに入って、数日経っても変わらなかった。
香はとうとう、捜査一課課長――福本から本部に呼び出された。なんの報告もないが、どういうことだ、と。
散々一課長に絞られた後、香は車で二時間かかる南王署にとんぼ返りした。休んでいる暇などなかった。手掛かりを見つけるまでは。
香は焦り始めていた。南王署に着くと、本部と南王署の往復四時間を運転してくれた南王署の刑事に労いの言葉も掛けず、無言で車を降りた。
しかし、降りた場所が悪かった。正面玄関前に現れた香に、情報を求める記者が数人、集まってきた。事件発生後から、捜査本部のある南王署前には記者が数名張りついている。
事件の被害者が大病院の跡取り息子で、有名進学校の生徒だったこと、そして非公表ながら、眞澄の被害の詳細がマスコミに漏れ伝わり、その真偽を確かめようと彼らは躍起になっていた。
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