二人だけの

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   *  小宮が亡くなって三日が経った頃、坂口は復帰した。  有給など夢のまた夢であったうちの会社を、認められる理由も無くこれだけ休んだのは坂口が初めてなんじゃないかと思った。彼女のことだから無理を通したのだろう。お通夜や葬儀に出ていたらしい小宮は、いつも飄々としていて表情を崩さないのに、今日はひどく暗い顔をしていた。  帰り際、エレベーターホールで会ったので声を掛けてみた。  その頃にはもう、彼女は普段の無表情に戻っていた。 「自殺ですよ。対外的には心筋梗塞と言っていますけど」  坂口はそう言った。  俄かには、信じ難かった。自殺をする理由が分からない。むしろ彼女の立場なら、まさにこれから人生が明るくなるだろうというのに。 「……どうして。もしかして遺産、もらえなかったのか……?」  坂口は到着したエレベーターに無言で乗り込む。そのまま何も言わない。  俺は苛立ち、つい彼女の肩を掴んだ。 「なあ、お前何か知ってるんだろ」  坂口は、俺の腕を払いのけた。  そしてふと、持っていた鞄を開ける。中から取り出したのは、『坂口梨沙様』と小さく書かれた白い封筒だった。  ……遺書か。  坂口は、しばらくその封筒を俺に見せるように前に突き出していたが、やがてだらりとその腕を落とした。 「何も」  坂口は、小さくそう言った。  そして、ゆっくりと封筒を鞄にしまう。 「この中には、私に対するこれまでの感謝と謝罪が書かれていました。でもそれだけです。私は二人のことは、ほとんど何も知りません。もし何か書かれていたとしても、小野寺さんには話しませんけど」  そして、思い上がらないでください、と付け足した。 「夫婦とその他の人たちの間には大きな壁がある。私もあなたも、彼女にとってはただの同僚でしかない。介入なんてできない。金銭の関係だったのか、愛情があったのか、それとも何か脅されていたのか、政略結婚だったか……夫婦の、本当の、本当のところは、やっぱり夫婦にしか分からないんです」  
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