疲れていました

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 疲れていたのだと思う。一人で寂しくお酒でも飲もうと思って、夜の町に繰り出した。 まだ夜の八時を回ったところ。地方都市とは言え、一人歩きを怖がるような時間帯でもなかった。 『だから女は駄目なんだ』  そう、上司に言われた。自分にミスがあったとは自覚している。しかし、それが女だからと言われたことが悔しかった。  大学院で修士号を取得して中堅企業の研究所に就職した。上司は男性ばかり、何かあるごとに女であることを揶揄された。 『女は育てても、結婚して子どもができたら辞めてしまう。あの教授に頼まれたから、しかたがなく採ったんだ。付き合いだからな』  上司の言葉は私の心を抉る。私は望まれて採用されたわけではない。  同期の男性がミスをした時は、私よりもっと怒られていた。それは、育てようとしているように見えた。  私は怒られたと愚痴る同期を複雑な思いで眺めていた。  私は博士課程に進学したかったけれど、父は婚期を逃してしまうと、首を縦に振らなかった。  二十四歳で就職して三年目。私は二十七歳になっていた。 仕事を頑張っても、誰も認めようとしない。上司も、同僚も。家族さえも。女だから嫁に行き子を産んで、仕事を疎かにするからと。  そんな鬱積した思いで歩いていると、大声を出しながら歩いている中年男性の集団とすれ違った。隨分と早い時間から飲んでいて、すでに酔っ払っているようだった。  その中の一人に腕を掴まれた。 「よう姉ちゃん、一緒の飲もうや」 「離してください!」 「澄ましてんじゃねえよ。酌でもしてくれればいいんだ」  酒臭い息を吹きかけながら、男は怒鳴ってきた。周りの酔っ払いたちはただ囃し立てているだけだった。 「本当に離してください」  私が男ならば、こんな扱いはされない。とても、理不尽だと思った。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加