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「本当に接待なんですか、先生。これ」
言うと、先生が、コーヒカップを傾けたままで私と士郎さんを一瞥する。
涼しげな瞳と、顔の両端以外の髪の毛を全て後ろに回した、ツンツンのオシャレオールバック。
「本当ですよ」
「それみろ彩女ちゃん」
「彩女さんの思っている方が、ですね」
「ぐ」
士郎さんが言葉に詰まる。
「……それみろ」
私は言って、そのいかがわしい領収書を改めて士郎さんに突き出した。
「まあ、しかし」
と、そこで先生が息を吐いて言う。彼の座る大きな椅子が、体重をかけられてギッ、と鳴った。
「今回は大目に見てあげましょう、彩女さん」
「え?」
「士郎、それが清算されないと飢え死にしますから」
「はっ!?」
私は、思わず士郎さんの顔を凝視した。
「給料日まであと二十日あるんですよ士郎さん?」
「うん」
「勿論、私より給料貰ってますよね?」
「うん」
「何に遣ったんですか」
「車を一台」
と、それを答えたのは伝道さんだった。
「……そろそろ、家の駐車場が溢れてきますね?士郎」
「面目無い」
「そういう訳です彩女さん」
「……」
私は、その平仮名で「はぁと」など書かれているふざけた領収書を、バシン!と自分の机に叩きつけた。
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