第一章 三人と一匹

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ともあれ。 先生は今日も、滞りなく順調そうだ。 ”コールドリーディング”。この完璧な探偵ーーーー”不可能探偵”は、自らの能力をその言葉に当てはめる。 人と会い、少し話しただけで、その人の全てを見抜き、探り出す力だ。おおよそ人が行い、所有する”観察””洞察”そして探偵らしい言葉、”推理”の究極系ではないかと私は思っている。 相手が答えるわけでもないのに、伝道さんはピタリと、寸分違わず言い当ててしまう。 詳細プロフィール、性格、そして、あらゆる状況でその人が取るであろう行動。 私は先生と初めて会った時、その去り際で言ってもいないのに名前を当てられた。 そして次に会った時、コーヒーに角砂糖を二つ入れる、という細かい好みまで言い当てられた。 それだけでも恐ろしいが、最も凄いのは”その人が取るであろう行動”まで予測できる、という事。 伝道さんはあまりに、あまりに細部まで人を見抜きするが故に、何と脳内で本人そっくりの”人格”を形成させ、本物そっくりにシミュレーションさせる事が可能なのだ。 「そのストックはまあ、百万人、って所かな」 と、以前士郎さんが言っていた。 「その百万人の”人格”が今、先生の頭の中で生活していて、そしてそれは今も、先生が”読む”度に増え続けている」 それがどういう事か。 伝道さんの脳内で、本物そっくりにシミュレーションされる人格達。 時に動いて休み。時には喧嘩し。 時にはーーーー本物に先駆けて、伝道さんの中で事件を引き起こす。 伝道さんが勝手に推測する事だ。その時間設定は、本人の思うがまま。 そう、つまり伝道さんは、”事件が起こる前にだれがやったかというのが分かってしまう”という、とんでもない力を保有してしまっているのだ。
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