第一章 三人と一匹

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「伝道さん」 「はい」 紙に張り付いた色紙を煩わしく払いながら、私はこの事務所の主人に問い掛けた。 「どういう事ですか?」 「どういう事というのは?」 「とぼけないでください」 私は言う。 「私、”不可能探偵事務所”なんて、受けてないですけど」 そう。 私の唯一の内定先はこのふざけた事務所で。 そしてここは受けておらず、要するに私は今この瞬間に至ってもまだ、相変わらず就職戦線で百戦百敗なのだった。 間。 「ご不満ですか、彩女さん」 テーブルの上の料理を、適当に小皿へと盛り付けながら伝道さんが言う。 「まあ、これでも食べなさい」 と、それを私の所へと差し出し、隣のコップにシャンパンを注いだ。 「何でですか?」 私は訊いた。 「何で、とは」 「どうして私に目をつけたんです」 伝道さんの目が涼しげに光る。 「言っちゃ何ですけど、ここ以外に内定ゼロですよ私」 「知ってます」 「資格は多少有りますけど、人間としての素質は多分、人より数段劣ってますよ」 「知ってます」 「じゃあどうして」 「彩女さん」
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