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(……夢?)
ふと気が付くと、そこにはもう、彼女の姿は無かった。
電車に乗り、席に座った瞬間と同じ光景が去来してくる。四人が座れる向かい合わせの席。一人は私で、隣は中年サラリーマンに、前の二人はカップルだった。
彼女が座れる場所など、どこにも無い。
電車が大きく横に揺れた。もうすぐ私の家の最寄り駅だ。
「ん」
右手にカサ、という感触がした。
(紙?)
にしては、どこかツンツンしている。
私は視線を右下に移し、同席した三人に気付かれないようこっそりと、右手を開いてみた。
「……嘘」
思わず声が出る。
去来する、先程の夢のような。いや、ほぼ夢であろう出来事。
夢であった筈だ。
夢じゃなければあれは何だ。
いや、現であればどうやって説明する。
「……」
私の右手が、白い折り鶴を握っていた。
(七浜家)
心の中で言う。
(鍔番家)
心の中で呟く。
(お姫様)
心の中で思う。
彼女は一体何だったのだろう。
これは、大学卒業を間近に控えたある日のエピソード。
お姫様と一般人。
いや、彼女が言うには王子様。
お察しの通り。今回もそういう、碌でもない話だ。
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