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要らないことに思考を持っていかれているうちに、エレベーターは1階に辿り着く。
ドアが開くと同時に、まだ行ったことのないあの歩道橋目掛けて走り出した。
ろくに上着も着てこなかったため、冷えた風が肌に刺さる。
マンションのエントランスを抜け左折してしばらく走ると、目的の場所が見えてくる。
僕の位置からでは歩道橋の上に人影は見つけられなかった。
この辺は車の通りもボチボチある。もし飛び降りていたりしたら、大騒ぎになっているはずだ。
「まだ間に合う!」
苦しくなる呼吸に負けないように自分を励ましながら階段を登った。
ひとつ飛ばしで階段を蹴り、もう少しでてっぺんに辿り着くという時だった。
ドンッと正面に衝撃を受け、僕の身体は重力に従って落ちた...と思ったら、腕をグイッと引っ張られ僕は無事にてっぺんに着地する。
それとほぼ同時に僕の横を何かが通り過ぎ、次の瞬間すごい音がした。
何が起きたのか理解するまでどのくらい時間を要したのだろう。
それは一瞬だったかもしれないし、思うより長い時間だったかもしれない。
歩道橋の上から階段を見下ろした僕の目に映ったのは、長い髪とうつ伏せに倒れた女性の身体。
そしてその身体の下からどんどん溢れる赤い血液だった。
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