第一章  『始まりの時』 『このままで・・』 『仲 間』

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第一章  『始まりの時』 『このままで・・』 『仲 間』

『 始まりの時 』 むかし、むかしのその昔に、今の中国に、強国に挟まれた小さな小さな国 「無花果国(いちじくこく)」と言う国がありました。 この物語は、その小国に起こった悲劇より始まる。 三日三晩、男の泣き叫ぶ声が村中に響き渡った ・・ そして、男は息絶えた! 男、三十八歳の春の頃であった。 男は美しい妻と娘との三人家族であった。 男は、国主直属の芸術家で特に陶芸、彫刻に秀でていた。 男は、国の芸術所であるところの「無花果国蓬莱堂」の堂長を任されていた。 時はまさに、群雄割拠の時代を迎えようとしていた。 この小国は武力を持たない龍神信仰の国であった。 国の主産品がイチジクであることが国名の由来である。 この迫り来る国難に、僧侶たちは龍神の化身としての観音像を造り、 そのモデルとなる女性を人柱にたて、 その観音像八十八体を国境に埋めることで他国からの侵略を防ごうと考えた。 このため、国中から観音仏となる若くて美しいモデルが募集されたのである。 しかし、誰ひとりとして名乗りを挙げる者はいなかった。 誰の申し出のない中、男は自分の最愛の妻を差し出す羽目になる ・・・ 男は我が家の庭石に妻を座らせて写生した。 そして、一ヶ月後、 青白磁製の美しい観音像は出来上がった。 八十八体の観音像は国境各所に埋められたのである。 人柱は読経の後、宮殿の庭のイチジクの木のそばにとめられた。 そして、その上に質素なお堂が建立された。 お堂のそばには「無花果国守護観音」と刻まれた石碑が建てられたのである。
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