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決意-1
「聞いていいかな」
ビールもコーヒーも要らないというシャルにまた水を渡した。さっきと違ってゆっくりと飲んでいる。
「なんだ?」
「話したくないなら話さなくていいから。新しくついた力ってなんだったの?」
シャルがドラッグで死にかけてついた力のことだ。
「お前も見たろう? クレイグの頭ん中に声を刺し込んで、そして体をふっ飛ばした。おまけにあいつの中の何かをふっ飛ばしたらしい。『俺に何をした!』、そう叫んでた…… 俺にはよく分かんねぇけど」
確かにそう言っていた。クレイグはあれ以上攻撃せずに逃げた。
「俺はこれ以上、力なんて欲しくない。どんどん人間から遠い存在になっていく」
シャルが俺の腕を掴んだ。
「頼みがある、ノア」
「何?」
「俺にこれ以上余計な力が付く前に…… 俺が俺でなくなる前に俺を終わりにしてほしい。ヴァンパイアや他のモノになってまで生きていたくはない。もし…… もしお前を襲っちまったら…… それを考えると気が狂いそうだ。お前がだめならカイルかベンに頼む。でも俺はお前に終わらせてほしいんだ」
「シャル…… それがどんなに酷い頼みか分かってるよね?」
「分かってる」
「……残酷だよ」
「ああ」
「出来ない」
「お前は出来るよ。ハンターだからな」
「こんなことのためにハンターになったんじゃない」
「魔物はどれも同じだ。他のも、俺も。生かしておいちゃダメだ。お前は誰かに俺が殺されたらきっと復讐に走るだろう。それがカイルでも、ベンでも。だからお前がやるべきなんだ。自分で出来ればやってる。でも銀のナイフで刺して、聖水と油被って。きっとそこまでしかやれない。意識が飛んじまうから…… 自殺さえ俺はまともにやれやしないんだ」
そう言ってまた笑いかけた。
一瞬表情が固まって、目が見開いた。
「もう一つ手があった! 聖なるオイルだ。あれなら被って火を付けるだけだ。自分一人でもでやれるかもしれない。お前は何も辛い思いをしなくて済む」
「酷く苦しむって言ってたじゃないか! それで死にたくないって!」
「死ぬだけなんだぞ? きっとあっという間さ。その先には何も無いんだ。ちょっとの間の辛抱さ。うん、これが一番いい」
まるでいいことを思いついたようなシャル…… なんで気がつかなかったんだろうって。
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