始まり-3

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   黙っていると、きちんと座り直してまじめな顔になった。 「昔々。あるところに美しい女性がいました。彼女を見初めた男がある晩本能からその女性を襲ってしまいました。男はそれきり姿を消しました。でも彼女のお腹には1人の赤ん坊。彼女は生まれたその子を里子に出しました。そして他の男と恋愛の末、また男の子を授かりました」 そこまで言うと、にこっと笑った。 「お前さ、その最初に生まれた男 の子自体に罪があると思うか?」  俺は話の終着点が理解できないまま首を横に振った。何も知らずに生まれて来た赤ん坊に罪があるわけがない。  その反応を見て彼は真っ白な歯を見せた。 「それが、俺だ」 ってことは? 後から生まれた男の子が、俺? 「つまり俺たちゃ、異父兄弟ってことさ」  そのまままたベッドに転がった彼は目を閉じると、すうすうと眠ってしまった。ぐるぐると今の話が頭の中を駆け回る間、俺はそこに突っ立っていた。銃を右手に持ったまま。  しばらくして我に返った俺は、その寝息を立てている男の胸倉を引っ掴んだ。激しく揺さぶって男を叩き起こす。 「寝るな! 母さんはそんな目に遭っちゃいないし、俺は長男で一人っ子だ!」 目をこすりながら彼は喋った。 「もちろん、母ちゃんには何の罪も無いさ。ありゃ事故と同じだ。悪いのは男の方だ。お前の親父さんは全部承知の上で母ちゃんと結婚したんだぜ。お前は両親にもっと感謝すべきだ。あんなに親父さんに反抗しちゃいけなかった。立派なハンターに育ててくれたじゃないか」  なんで俺はこいつに説教喰らってるんだ? 俺が聞いた話じゃ、魔物に狙われた母さんを助けた父さんが一目惚れしたという話。彼にそう言うと事もなげに返事が返って来た。 「ああ。母ちゃんは魔物に襲われたんだ。ヴァンパイアにな」  ヴァンパイアに襲われた? 母さんが? じゃ、目の前にいるこの男はヴァンパイアの子どもなのか?     
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