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「お姉ちゃん、蜂に刺された」  正敏(まさとし)君が泣きながら駆けて来た。  大きな池を泳ぐ立派な錦鯉をのんびりと見ていた私は慌てて正敏君の手をとった。 「今、毒を吸い出すから。じっとしててよ」  黒目勝ちの大きな瞳が涙でいっぱいになっている。正敏君はコクンと頷くと、赤く腫れた中指を突き出した。白くてほっそりとした指を口に含み、前歯を当てる。傷口をかるく噛むようにして力いっぱい指を吸った。蜂の毒でじんじんと舌が痺れてくる。 「痛いよう」 「もう少し我慢して。すぐ済むから」  ガールスカウトで習った通り、舌にしびれを感じなくなるまで毒を吸い出した。突っ立ったまま泣きじゃくっている正敏君を背負い、急いで佑志(ゆうじ)さんの所へ連れて行った。  私が事情を話すと、 「沙紀(さき)ちゃんありがとう!」  佑志さんは正敏君を抱きあげると、フロントの方へ走っていった。  今日は曾祖母の弟の十三回忌で親族一同が『翡翠楼』に集まっている。親同士が従兄弟だから正敏君とはハトコの関係になる。田舎でイベントが少ないせいもあって母方の親族はこういう集まりがやたらと好きなのだ。     
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