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 今日の法事は、母が若い頃に可愛がってもらった大叔父さん(つまり母の祖母の弟。私から見るともうほとんど他人だ)の一大イベントだし、仲のいい従兄弟に会えるというので母は朝からノリノリだった。仲のいい従兄弟というのが、かつての石原軍団張りのハンサムな人で、その名も佑志、というのだから笑ってしまう。その佑志さんの息子が正敏君だ。  十三回忌に集まる親族はよほど暇なんだろうと思う。皆なにかしら血のつながりのある人たちのようで、山口弁まるだしで喋っている。  東京出身の父は今日はゴルフだといって体よく法事から逃げ出してしまった。転勤先が下関市の出張所に決まった時、父はひどく落胆していたが、数十年ぶりに故郷へ帰れると分かった母は大喜びだった。高校まで郷里で過ごした母にとって、此処は青春時代の思い出が沢山つまった大切な場所なのだ。 『翡翠楼』は有名な老舗旅館で県外からも沢山の観光客が訪れる名所だ。昔、秋芳洞のカルデラ台地から取り寄せたという大理石の大浴場はほどよく古びて落ち着いた風情を醸し出しているし、料理もすばらしい。今日は一泊するのよ、という母の甘言に誘われてついてきたというわけだ。  食事の支度が出来たと仲居さんが私たちを呼びに来て、用意された大広間に皆が移動した。膳の前に座ってしばらくすると、佑志さんに手を引かれて正敏君がやってきた。 「大丈夫だった?」  正敏君はこくりと頷くと、恥ずかしそうに微笑んだ。 「さすが真紀さんの娘じゃのう」 「そりゃあ、あんた、沙紀はがーるすかうとの班長さんじゃがね」     
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