たったひとつの(カッコ・カッコトジ)やりかた

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「論点をそらすな。そいつは俺の問題だ。俺がきいているのは・・・」 「まあ、時間に対する考え方が異なるのだろうな。お前たちとは」  『それ』は、さらりと言ってのける。 「知っての通り、我々は永い存在だ。お前たちの言う、神とやらをのぞけばな。こうも永いと、時間の咀嚼というものに慣れざるを得ない。まあ、お前も間もなく、その仲間入りをするわけだが。我々にくらべれば、比較にならぬ、ちっぽけな新参であってもな」 「・・・ちっ」  はぐらかされたか。が、こいつらが本音を漏らすはずもない。文字通り、愚問だったか。 「他に質問は? 疑問点は?」 「そうだな。はるか以前からの疑問なら、残っているが。つまり、あんたらが魂の取引とやらに固執するのはなぜか。回収した魂をどうするのか? その魂はどうなるのか? ・・・とかな」  答えは、返ってこない。沈黙は雄弁というわけか。 「ふん。まあ、そいつは置いておこう。おっと、そうだ。俺を中度~重度の怪我の連続で、思考や行動を制限する・・・あるいは植物人間状態にすることはないだろうな? 自殺した方がマシという」 「今更か。言わずもがな、だ。怪我もまた、身体・精神の健康・健全の保証に含まれる。些細な怪我はするかもしれんが、それらは迅速・完全に治癒するだろう。さらに、常時、重傷状態→植物人間化などは、契約後のあからさまな干渉工作とみなされる。よって、ありえぬことだ。我々はーー知っているだろう? 契約に関しては、忠実な遂行者だ。契約に失敗した者がこれまでいたというなら」  ここで、『それ』は嗤う。 「それは、我々がことさら奸智を弄したわけでは、ない。契約内容そのものに、もとより失敗要素があっただけなのだ。さて。ところで、お前はどうかな? この場合? ずいぶんと頭を酷使したようだが?」  今度は俺が沈黙してやる番だ。無論、長くはなかったが。 「ようし。それじゃあ・・・」  さすがに、この台詞を言うには勇気が要る。 「契約だ。俺は、どうすればいい?」   部屋の空中に、いきなり炎色の塊が出現した。それは一瞬で凝縮して、何かの形となる。  大きくはない。小さなものーー紙、か。これが、例のヤツなのか。  紙は意志があるかのように、俺の足もとにすっと落ちてきた。  ここまで、支障なく近づくということは、無害だということだ。
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