たったひとつの(カッコ・カッコトジ)やりかた

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 そのはずなのだ。--たぶん。 「契約用紙だ。お前が最も精通している言語で、今、確認した内容が列挙されているーーそのように読めるはずだ。問題がなければ、下部の空白部分のどこにでも署名をするがいい。こちらのサインはすでにすました」  普通の紙ではない。厚みがあり、なめらかだが、少しベタつくような感触だ。 「羊皮紙というやつか、これは?」 「なんとでも。説明するだけ無駄だろう」 「署名は、自分のーー俺の血でするのか?」 「そうしたければ、そうすればいい。通常のペンとインクでもーーなんなら、爪でひっかいても、いっこうにかまわん。ずいぶんと定型的な噂が流布してきたようだがな。そんなことよりも、内容を熟読したらどうだ? お前は脳みそをしぼって、永遠の命を完全無欠に得る法を、策定したんじゃなかったのか?」  その通りだ。不愉快だが、認めざるをえない。 「・・・文面は、確認後に変化したりしないのだろうな? その保証は?」 「まったく今更だな。信義則だ。人間同士でも、そうではないのか? そこまで偏執的に疑いを捨てられないのなら、ご破算でもかまわないんだぞ。ただし、今後、お前がどのような方策を腐心しても。なにものも、お前の前には現れないだろうがな。いわばこれが、たったひとつのやりかた、というわけだ。好きなようにするがいいさ」 「・・・・・・」  俺は、文面をーーそれは完璧な日本語だったがーー文字通り、眼を皿のようにして読んだ。  誤認・誤読誘導。ひっかけ、はないものか。落とし穴は、どうだ? どうなんだ?  だが、いくら読んでも、それはーー先ほどの『それ』が確認した内容以上でも、以下でもないのだった。 「問題ない・・・と、思う」 「そうか。けっこうなことだ」  俺は、デスクの上の高価ではあるが、ありふれたペンを手にとった。さすがに心臓の鼓動が早い。それはそうだろう。歴史上、名だたる人間が求め。餓えて、そのほとんど全てが得られなかった願いが成就しかけているのだから。 「署名は、お前がふだん使用している形で行えばいい。言語や字体は問わない。ただ、正確に書くことだ。その紙は、いわば我々の一部だ。問題がなければ、署名を書き終えた瞬間。お前の望みは発動する」  
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