たったひとつの(カッコ・カッコトジ)やりかた

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 ゲームは、制限や障害があって、はじめて、のめりこめる。そうじゃあないか。  だからこそ、見せかけとはいえ、複雑な手続きを設定し。そこにいたる過程も困難に満ちたものにした。  入手する玩具に、『プレミア』を付与するために! 口上とは別に、凡庸ならざるいたぶり甲斐のある者が、集い、たどりつくように!  ならばこそ、『三つの願いパターン』の攻略の困難は、当然のことだった。  安易であれば、真の意図に気づかれてしまう。  『ネズミ捕り』に気づかれてしまう。  ゴールが難関であればあるほど、真の意図はカムフラージュされるのだ。  そうして。そのようなネズミのなかでも、永遠の命の願望保持者などというものはーー永い時間のなぐさみとして、これ以上はないほど極上の獲物であったろう。  つまりは。とどのつまりはーー俺のような。  玩具の遊び方も、おそらく星の数ほどあるに違いない。  が、そのなかでも俺は、最凶最悪のパターンを、わざわざ長広舌をふるったあげく、提供したことになるはずだ。  負け犬にならないだと? 交渉の達人だと? 自分のペースだと? リードするだと?  噴飯もの以下だ。  相手は百戦錬磨どころではなかった。もとより、人智の及ぶところじゃあ、ない。  なんということだ。  なんということを・・・・・・俺は  ・・・・・・・・・・・・俺は  ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・俺は、今日も元気に、地獄にいる。  ああ、今日という言い方はおかしいな。今や意識だけの存在といっていい俺に、今日も昨日も明日もないのだから。  肉体の方は、何も感じない。あるのかどうかも、正直、よく分からない。幽体離脱のように。おかしな言い方だと分かってはいるが、ほんとうにそうなのだ。  瞬きをしなくても、身じろぎできなくとも、椅子に腰かけたままでも、肉体的な苦痛はまったくない。 なにしろ、現実世界では、俺がこんな状態になってから、まだ1秒もたってはいないはずなのだ。  視界に見えるのは、広いデスクの一部と、今となっては何の意味もない例の羊皮紙モドキ。自分の体の一部と、そうして指からは離れたものの、まだ倒れきってはいないーーペン。  いくらか傾きが大きくなったことで、かろうじて俺は時間という代物の感覚を維持できているのかもしれない。        
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