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「身体と精神の健康・健全の保証。そうして現在の年齢の、肉体の維持、だ」
「実質的な不老不死というわけだな?」
『それ』のあかい眼が、きらめく。俺はたじろがない。たじろぐ理由がないからな。
「そうだ。あんた、今さっき、自分で言ったよな。石化云々と。そうだとも。せっかく永遠の命を得ても、そんな状態じゃあ噴飯ものだ。精神も破壊されてしまうだろう。だから、俺の体組織をいじくり、変質させるような小細工は、一切なし、だ。
同じ理由で契約成立後、俺は年をとらないし、一切病気にもかからない。よぼよぼで、大病を患ったままの永遠の命など無意味だろう?
あんたは強大だ。そのはずだ。少なくとも無数の文献等では、そうなっている。魔法、魔術、魔力。あんたの力を正式に、どう呼ぶのか知らないがね。
もし、現在、俺の体に病疾の因子があれば、それらはすべて消去しておいてくれ。あんたならできるはずだ。いや、できないならまがいものだろ?」
「なんとも、要望の多いことだな? 体組織をいじくり、変質させるのはなし、じゃあなかったのか?」
そろそろ、横槍が入ると思ったよ。
「こいつは変質じゃあ、ない。保証と維持、だ。できるのか、できないのか? できないというなら」
「取引はご破算か? 何とも態度がでかいことだな。まあ、いいだろう・・・」
例の汗が、いっそうひどくなったようだ。気取られていないだろうな? それに、これからはいっそう気をつけろ。相手の一語一句に。こいつは、すべてが油断ならないのだから。
「次の条件だ」
気づかれないように、深呼吸をする。
「俺の要望は、さまざまな意味で不可逆とする」
「ほう?」
疑問符か? 俺の思考は読めないはずだ。だが、完全な保証はない。まあいい。説明してやるさ。
「つまり、あんたは契約成立直後に、時間をいじくってーー契約前の俺の命を奪ったり。あるいは俺を赤ん坊の状態にして、契約意志の無効を指摘することはできない。
もちろん、時間を無限にループさせて、俺の精神をまいらせるという搦め手も、だ。
契約者の精神が異常をきたせば。あるいは白紙状態になれば。当然、その時点で命なり魂なり、あんたが総取りだろうな?」
「その質問は、無意味だな。その仮定では契約者は、外部の情報を認識できないのだから」
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