たったひとつの(カッコ・カッコトジ)やりかた

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「ああ。なんといっても、名にしおうあんたと、サシで向かい合ってるんだ。緊張しない方がおかしい。違うか?」 「さあ。どうかなあ」  『それ』は、嘲弄ーーという以前に、子供が面白がっているとしか思えない口調になっている。 「交渉事というのは、虚心坦懐ならスムースに運ぶものだ。出さなくていい汗が出るのは、含むところがあるからではないのかな?」  虚心坦懐? 含むところ? 誰がどの口で言うんだ。ブラックユーモアとは、まさにこの事だ! 「次のーーおそらく最後の付帯条件だ!」  俺は、それ以上無駄話にとりあわず、頭のなかのシナリオの台詞を口にしていた。  かんじんかなめ、の部分さ。  何としてもクリアしなければならない。いや、気負いは厳禁だ。分かっている。  分かってはいるんだが・・・。 「あらゆる偶然性による、生命中断の可能性の排除、だ」 「ふうん。偶然性かあ」  俺は続ける。続けるしかない。 「人為的な事故、犯罪に巻き込まれることはない。頭のネジのはずれたヤツに殺されるなんて、まっぴらごめんだ。また、それ以外の事故・人災もだ。偶然、ビルの上からコンクリート片が降ってきて、脳天に命中! なんてのは、論外だ。欠陥工事による道路の陥没やら、化学物質による影響やら何やら。それから動植物による襲撃や中毒。飛行機に乗ってる際の、バードストライクなども、な」 「やれやれ、大した想像力だな」 「まぜっかえすな。あんたらなら、それこそありとあらゆる『偶然』を演出できるだろう。ネジのはずれたヤツを操る。動物を操る。ドライバーの注意を、ほんの少し他に向けるーー朝飯前以前か」 「そうやって。1秒でも、早く魂とやらを回収したいと思われているわけだな?」 「ああ、保険金は、かけ金最小で最大の額を得るのがベスト・・・だろうからな。それを回避するための、可能性の排除だよ」  俺はそこで息を継いだ。 「くわえて、天災レベルの『偶然』はなおさらだ。地震・自然火災・落雷・・・あんたなら、隕石をピンポイントで命中ってのもやりかねない。ちがうか?」 「やるか、やらないかはともかく。不可能ではないだろうな」 「とにかく、そういったものすべての可能性の排除だ。どうだ?」
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