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『それ』が、そんなしぐさをするはずもないのだが・・・イメージとして顎に手をあてて、笑っているように思える。肩まで揺らして、だ。
「ああ。まあ、それもいいだろう」
快諾、か。それとも見せかけか。俺には判別できない。クソ。また。いらつきが。
「それで終わりか。付帯条件とやらは。他にはないのか? つけたしは、ないのか? これでいいのか?」
生まれてこの方、これほど思考を高速回転させたことは、なかったろう。
シュミレーション通りか。抜け目はないか。つけこまれる点はないか。落とし穴は大丈夫か?
「・・・以上だ。いや、一つあったな」
「自殺の自由だな?」
こめかみから、ツーっと大粒の冷や汗が流れおちる。
見抜いていやがる。いや、想定はしていたが。こいつは、やはり。
侮りがたい。
もちろん、侮ってなどいない。最初から、厳戒態勢だ。マックスに、な。
「最初の自由意志の尊重にふくまれるーーはずだ。だから、確認、だ。俺は好きな時に自殺する自由が認められる。好きな方法でだ。それを妨害することはできないし、逆に何らかの手段で無理やり自殺させることもできない・・・」
「永遠というのは、最大の苦痛という考え方もある。人間などには耐え難いと」
言われなくとも分かっている。
「そうだ。否定しないさ。永遠の命は欲しい。だが、どれだけ、それを享受できるかは未知数だ。少なくとも、記憶の荷重というヤツで自壊はしないはずだ。俺の精神の健康・健全の保証に含まれるからな。しかしーー」
「退屈というやつは魔物だ。死なないという状態に倦み飽きることは十分、考えられる。だから逃げ道を残しておくのだな? 死なない体ではあるが、死ねないわけではない、と」
またしても、先回りか。クソ。
「その通りだ。文句があるか?」
「いいや。何も。では、付帯条件は、以上だな?」
俺は考えた。
さらにさらに考えた。『それ』はその間、沈黙して待っている。本音を言えば、おそろしい沈黙だ。何しろ、こいつはーーこいつらは、おそろしく場慣れしているハズなのだ。
似たような交渉ーー願いを無数に『処理』してきたハズなのだ。
それも。確実に自分たちに、これ以上はないくらい有利な形で。
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