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その事を鑑みれば、俺の『取引』は、あまりにもスムーズすぎはしないか?
さっきから、こいつは、まるで俺の手助けでもするように。サポートかと思えるくらい、先読みをし、かつ条件を快諾し続けているように思える。
何かおかしくは、ないか。何か、俺は決定的なへまをしていないか。何かを見逃してはいないか。
「考えすぎると、ろくなことはないぞ。それこそ、思考がループすると思うが、な」
またしても『それ』の、的確な指摘。
「うるさい。黙っていてくれ・・・」
的確だからこそ、いらつく。クソ。どうしちまったんだ。ふだんの冷静な俺はどこにいった。交渉をリードし続けるんじゃあ、なかったのか?
「黙っていて、いいのか? ははあ、それも、付帯条件というやつか?」
暗い部屋が、ぐるぐる回っているようだ。ひょっとしたら、本当にまわっているのか。『それ』にとっては、そのくらい児戯だろう。
しかし・・・。
とどのつまり、俺は言ってしまう。自分自身を頼んで。当初の予定通りに。
「条件はーー以上だ」
そうだとも。当初の予定でいいのだ。そうに決まっている。これは、『それ』のペースにはまったからではない。大体、『それ』は嘲弄的ではあっても、思考誘導の場面も、印象操作のテクニックも何もなかった。そうだろう。
『取引』は順調に進行し、終盤に向かっている。肩透かしをくらって、疑心暗鬼に陥りかけるくらいに。一人相撲で煩悶するほどに。
とどのつまりは、そうなのだ。そういうことなのだ。
「そうか。では、念のために確認をするぞ」
影のような『それ』は、年齢不詳の女の声で、アナウンスをしているかのように言いはじめる。
「まず、お前の望みは永遠の命。対価は、お前自身の魂と呼ばれるものだ。契約成立後、しかるべき時点でこちらに回収されることになる。ここまでは、いいな?」
「ああ」
「なお、この取引には以下の条件が付帯するものとする。
ひとつ、契約者の身体・精神の健康・健全の保証。くわえて、現在の契約者の肉体・年齢の保持。
契約者は、実質的に不老不死状態となり、契約成立後、いかなる病気にもおかされず、また精神に異常をきたすこともない。さらに、契約以前に、その体に疾病・異常の要素があれば、これらは成立後にすべて消去されるものとする」
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